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銚子市消防団と連携した学生消防隊  地域防災力を高める一つの試み

室井 房治 ※

桐畑 博樹※※

1.        はじめに

銚子市消防団は、団員の減少、サラリーマン化により消防団機能、地域防災力の低下が危惧されていたが、全国初の危機管理学部を有する千葉科学大学の大学生と連携することにより、その問題の打開を図ることを試みている。ここでは千葉科学大学学生消防隊の現状を紹介するとともに、その活動が消防団に大きな力になる可能性を秘めていることを紹介する。そしてこの銚子モデルが全国の多くの消防団にとって有意義な手法となり、広がっていくことを願うものであります。

 

2.        銚子市消防団について

本州の最東端に位置する千葉県銚子は、江戸時代より農水産業、醸造業で栄えた典型的な地方都市である。銚子市消防団は地元醤油屋さんの火消し部隊を源流として、その歴史は古く、市民の安心安全を守る組織として大きな力を発揮し、市民からも絶大なる信頼をえてきた。

ところがご他聞にもれず、銚子市は人口の減少、中心市街地の衰退に伴う商工業者の減少、専業農家の減少といった典型的な地方の小都市が持っている共通の現象を食い止めることは出来ていない。当然銚子市消防団もその影響をまともに受け、団員の減少、サラリーマン化といった問題に直面している。さらに地域コミュニティ力の低下や、住民とくに若者の消防団に対する認識のずれなどから生じる消防団不要論まで聞こえてくる事態である。他方、近年続発している大規模な自然災害における消防団の存在価値はますます高まっていると考えられる。そこで銚子市消防団は地元に開学した千葉科学大学の若者の力に着目をし、出来うる活動から連携を始め、その成果が少しずつ現れてきたところである。

 

3.        千葉科学大学について

千葉科学大学は、全国初の危機管理学部を有する大学として2004年春銚子市に開学した。学長には元消防研究所理事長であった平野敏右東大名誉教授を迎え、「世界の平和に役立つ人材を育成する」という理念の下、薬学部と危機管理学部からなる2つの学部から構成されている。とくに、危機管理学部においては、様々な危機に対峙できる危機管理、防災行政のリーダを目指す多くの学生が修学している。    風光明媚な銚子の海岸に位置する千葉科学大学

この危機管理学部に、開学の翌年となる2005年5月に銚子市から2台の消防車両が無償で貸与された。銚子市消防団が使用して約20年を経過した車両ではあるが、十分に整備が行き届いており、その機能は100%維持されたものであった。2台の消防自動車を見た学生の呼びかけで、すぐに学生消防隊が組織された。銚子市消防団も快く学生消防隊の規律訓練や体制作りを引き受けその尽力を惜しまなかった。

 

4.        2台の消防自動車を見て学生は行動した

       学生消防隊設立の経緯

2台の消防自動車が大学に貸与された頃、危機管理学部の2年生(この大学の一期生)の間では「危機管理を学ぶ以上、今の自分たちの力がどのようなものか現場で試してみたい」とか「講義だけではなく実際の火災現場を見たい」といった意識から、自主的に防災組織を立ち上げ、銚子の防災活動に自ら参加したいという機運が高まっていた。そして大学構内に駐車した2台の消防自動車を見た学生たちは一気に学生消防隊設立に向けて行動を開始した。その結果学生の手によって消防自動車をしっかり維持管理をする代わりに、学生が消防自動車を使って訓練をする事が出きる組織として、学生消防隊は大学当局から正式に認められた。ここに全国でも珍しい消防自動車を持った学生の自主防災組織が誕生した。

 

5.        がんばる学生消防隊

       活動の足跡

①消防車を実際に使用した訓練と消防団の大会への参加

学生消防隊最初の活動は銚子の潮風による塩害から消防車2台を守るための車両整備と管理から始まった。この活動がきっかけとなり学生消防隊は週に一回消防車庫前に集合し車体清掃をする傍ら銚子市消防団準拠の規律訓練、放水訓練等を行ってきている。すなわち学生消防隊は銚子市消防団と同等の規律、指揮命令系統、ポンプ運用能力を持った組織を目指して努力をしてきている。そして日常の訓練の集大成として銚子市消防団の指導の下、銚子市実戦操法大会(注1)にオープン参加し、昨年度の大会では上位入賞程度の技量を披露することが出来た。さらに銚子市消防団と中継放水訓練などより実戦的な合同訓練なども実施した。(注2)

          

 実戦操法大会にて訓練の成果を披露する隊員達

②火災現場に出場して銚子市消防団への後方支援協力活動

 学生消防隊が他の自主防災組織と比べて特異な点は大規模災害に備えるだけでなく日常よく起こる小さな災害に対しても出場している点である。学生消防隊は設立以降銚子市内で発生した建物火災の大半に出場し交通整理や撤収時の片付けなど、自分達が出来る範囲内での消防団と連携した後方支援活動を行っている。平成19年9月6日から7日にかけて銚子市を襲った台風9号に対する銚子市消防団の警戒活動にも参加し、市内警戒中の各消防団車両からの団本部に集まる情報をとりまとめ、さらに銚子テレビ放送が消防団と連携して災害情報を市民へ伝える作業を手伝った。この活動は銚子市消防団にとって従来から課題であったIT技術を活用した災害情報の共有化・蓄積などの業務が可能になったとの評価を受けている。

 

③地元住民との信頼関係を醸成するための活動

 学生消防隊は地域住民との交流と学生消防隊への認知や信頼を高めるため、学生消防隊ならではの能力を生かした学内外でボランティア活動を積極的に展開している。この学生消防隊が単なる学生の自主防災組織ではなく銚子市民と密着した組織であることを示すものである。近年失われつつある住民相互の交流を補い、学生に代表される若者と地域住民との連携が強化され、万が一のときの自助・互助が円滑に機能するための活動でもある。これまでに実施した活動として学生消防隊は、学内においてはオープンキャンパスの展示や大学祭における支援活動、学外においては地元の有志が企画した市民イベントである銚子音楽祭や夜祭の会場・駐車場の警備、市の主催する銚子市駅伝大会の救護班、小学校下校路のパトロールなど様々な活動を行っている。

IMG_4670.jpgのサムネール画像2007年3月25日付地元日刊紙「大衆日報」にて、銚子音楽祭にて駐車場整理などの活動が掲載された





6.        一生懸命活動した結果、住民、消防、大学から認知された学生消防隊

 学生消防隊の地道な一連の活動の結果、学内外において教職員や学生、市民から学生消防隊は地域防災を担う防災組織としての認知と信頼を獲得することに成功した。現在ではボランティアや災害現場などでの活動中、学生消防隊員達に対し市民から「がんばれ!」「消防隊おつかれさま!」と声援もいただいている。この結果、平成19年8月には大学当局 地域防災強化に関する覚書締結の様子

銚子市消防団、学生消防隊の三者において「地域防災強化に関する覚書」を調印取り交わし、銚子市の常備消防や消防団から「共に防災を担う仲間」として公に認知された。そして銚子市が主催する防災訓練において住民の避難誘導や広報・災害情報伝達などを受け持ち、災害時に活動する機能の一つとなった。

 

7.        学生消防隊ならではの試み

学生消防隊発の災害情報発信基地の整備

学生消防隊が今すぐに自分たちの持っているスキルを役にたてる場面はないかを議論した結果、災害情報発信基地を構築することになった。過去の災害情報を蓄積することや、消防団の活動報告の整理、情報の共有化、啓蒙情報などの発信といった平時において、日々積み重ねていかなければならない情報処理や、災害発生時に住民に正確で的確な情報を提供できるシステムの運用が可能な情報発信基地を目指すものである。その第一歩として学生消防隊は独自のホームページ(注3)を立ち上げ日々更新作業を行っている。この情報発信基地は銚子市消防団の活動をお手伝いするにとどまらず、地域防災力の強化の一助になるものと考えている。

 

8.        千葉科学大学生にとっての学生消防隊の存在は

現場に足を踏み入れる体験は間違いなく教室での座学の学習に役に立つ。しかも将来の進路についてもその動機付けや、方向を確たるものにして、希望する職業につくことができる。この効果は単に学生消防隊員だけにとどまらず、一般学生にも影響を及ぼしている。その結果、今年の三月千葉科学大学を一期生として巣立った卒業生の中で、全国各地の消防官、警察官、海上保安官、といった危機管理の専門職の公務員に進んだ学生は40名を越えた。とくに、学生消防隊の卒業生は東京消防庁、海上保安官、民間の警備会社へと進んでおり、これから災害現場などで活躍することが期待出来る。

なお学生消防隊は現在隊員数17名を数え、日々の訓練をしている。さらに、隊員達の個々のスキルを生かし「広報班」や「車両整備班」、「ポンプ運用班」といった作業班を作り、それぞれに活動している。また、隊員のうち1年生4人は居住地区の消防団員としても活動をしている。

 

9.        地域防災強化の担い手として学生消防隊の役割

大規模災害の発生を前提に全国では住民参加型の自主防災機能の強化に躍起になっている。ボランティア活動の参加が盛んになってきた昨今、災害現場でもボランティアの力を頼りにすることは重要である。しかし、大規模災害が発生した現場では、公助、互助、自助の機能がすばやく緊密に連携をして機能が発揮できるかどうかが、住民をより多く救うことが出きるかの鍵になる。とりわけ互助の機能が重要であり、互助の中心、リーダは普段から地域に密着をした防災活動を続けている消防団に他ならない。学生消防隊は消防団に近い指揮命令機構が構築され、規律が整い、自ら訓練が出来、日常的に消防団の作業のお手伝いをすることにより、住民から消防団と同じように認知され、信頼されるからこそ災害発生時に活動が出きるのである。すなわちボランティア組織とは異質なものである学生消防隊が災害現場では不可欠な組織になると確信するものである。このような活動を実践している千葉科学大学学生消防隊は、今日まで銚子市の防災活動、銚子市消防団に役立ったことはほんの僅かなことであったと考えられるが、この試みがこれからの銚子の地域社会にとって大いに役に立つ機能となりその第一歩を踏み出したと確信する。またこれまでの活動が可能になったのは銚子市消防団の的確なご指導、ご協力、物品その他の多くのご支援のおかげと深く感謝するしだいである。

千葉科学大学学生消防隊の試みが、今後の地域防災強化における若者の役割に一つの指針を示す活動として、紹介するものである。

なお千葉科学大学では、このような学生消防隊の活動を踏まえ、長谷川和俊教授※※※をリーダとし、銚子市、銚子市消防団、銚子テレビ放送など地元関係機関と共同で、学生消防隊が地域の防災力強化の力になることをさらに追求し、そのモデルを全国に紹介し普及することを目標として、今年度の消防庁「消防防災科学技術研究推進制度」の研究「地域防災力強化のための学生消防組織のあり方研究」をさらに進めることとなった。

 

※    千葉科学大学危機管理学部危機管理システム学科シニアフェロー 元銚子市消防団長

※※   千葉科学大学大学院危機管理学研究科 元学生消防隊隊長

※※※  千葉科学大学大学院危機管理研究科教授 工学博士 元独立法人消防研究所研究統括官

 

(注1)銚子市実戦操法大会は銚子市消防団独自の操作要領に基づき1984年より続けている操法大会である。その目的は団員が火災現場で迅速かつ正確に放水できる能力を備えるため、当初より放水時間、ホースの延長技術を重視した競技を行っている。

(注2)学生消防隊の持つ消防車はナンバープレートが無く学内のみの運用となっている。

(注3) http://www12.atwiki.jp/cisfireunit/

 



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